東京脱毛器男子5「ごめん、腕毛がゴリラみたいで無理」 

六本木のクラブで出会った謎のスタートアップCEO・ユウヤと共同生活を始めた直樹。なにかが吹っ切れたかのように女を食い漁ろうと、偽りの自分を演じながら出会いを重ねる。

 

今までの直樹であればあり得なかった刹那的な生き方だったが、マユミに捨てられた心の痛みは彼を冷酷な生き物に変えつつあった。

 

そんな中、毎週末に開催されるホームパーティーで女子大生カナコと出会い、いい雰囲気に。しかし、シャツを脱いだ直樹の腕や脚がムダ毛ボーボーだったせいで、寸前で関係を拒否されてしまう。

 

腕や脚を「脱毛」ならぬ「間引き毛」し、変わりつつある直樹。オトコの階段を登る彼の前に現れた新しい女性は、若き日の直樹の胸にしこりを残した相手だった……。

脱毛男子に訪れたポジティブな変化の数々

Walking in the neon lights
「ごめん、腕毛がゴリラみたいで無理」

 

「あなたとはエッチできない」

 

男子たるもの、女性に夜のお誘いを拒否されたこと、誰しも一度はあると思います。でも、俺みたいに「毛が濃い」という理由だけで拒絶された人はあんまりいないんじゃないかな?

 

カナコの言葉には、正直かなり衝撃を受けました。でも、これもいい経験だ、一夜の出会いだからここまで本音を言ってくれたんだって思うようにしたんです。まあ、強がりのポジティブですね(笑)

 

その出来事を機に脱毛して、ムダ毛が少なくなってから、俺には色んな変化が起こりました。まず、半袖のTシャツや短パンを履きやすくなったということ。今まで、あまりに毛が濃いんで、なかなか家の中でしか着られなかったんですよ。街中を歩くだけで、視線が突き刺さるような……以前はそれくらい剛毛でしたから。

 

それに、女性からの評価が上がりました。一度、半袖短パン姿で家の近所を散歩していた時、偶然職場の同僚に会ったことがあったんですよ。

 

そしたら「鈴木くん、なんか思ったより全然爽やかだね!」って。どう思ってたんだよ! って突っ込みましたけど(笑)、でも内心嬉しかった。やっぱり毛が濃いと女性的にはむさ苦しく、清潔感がないように思えるんでしょう。

 

今じゃ、暇なときにムダ毛のお手入れするのが習慣になっちゃってて。ケアの一貫で化粧水やら乳液を買ったりもして、ユウヤからは「そこまでやるのは俺くらいしかいないぞ(笑)」って言われたり。

 

でも、俺的には「打倒ユウヤ!」なんですけどね。

 

そんな地道な努力の甲斐もあって、今ではパット見でわかる部分は綺麗になりました。でも、全身綺麗かと言うとそうではなく……いわゆる、大事な部分です。

 

へそとビキニラインはもともと繋がっていて、脚を脱毛する前はそこも繋がっていました。わかりやすく言うなら「お腹部分は全部毛!」みたいな感じです。夏は汗で蒸れて、あせもができて痒くなるんです。しかも、そういうときは臭う……。

 

でも、VIOの脱毛って、日本あとハードル高いじゃないですか。女の子ならまだしも、男でやってると「キモい」と思われそうで……だから、俺はへそ付近と脚との境界部分まで処理することにしてました。

 

まさか、これが後に悲劇を生むことになるなんて、その時は思いもしなかったですよ……。

サークル女子との再会 「その他大勢の先輩」は今宵復讐を目論む

Close-up of woman drinking martini with olive Note to inspector: the image is pre-Sept 1 2009
そんなある日、いつものように行われたホームパーティーでレイカと再会しました。大学生の時、入っていた広告研究会の後輩です。レイカは当時から美人としてキャンパス内でも有名で、サークルのイベントなどでごくまれに話す時に、緊張したのを思い出します。大学卒業ぶりに会った彼女は、オトナの色気を身に着けてさらに綺麗になっていました。

 

当然のように、その日も男たちから大人気。仕方ないんでチラチラ彼女の方向を見ていたんですよ。そしたら向こうもそれに気づいたのか、こっちに寄ってきて……。彼女の口から飛び出してきたのは、驚きの言葉でした。

 

「はじめまして。気のせいか、さっきから目が合いますね(笑)」

 

なんてお名前ですか……彼女の顔を見ると、その質問が冗談ではないことはすぐわかりました。と同時に、自分の素性が他の人たちにバレてしまうのではないかと一瞬でも思った自分が恥ずかしくなりました。

 

でも、考えてみればこれも自然なことなんです。奨学金返済のためにバイトに明け暮れていた自分と違って、金持ちの娘の彼女はミスコンに出場したり、海外の大学に留学してみたりととにかく華やかな生活。周りにいるのも美男美女ばっかりだし、そんな中で地味グループの俺のことを覚える脳の容量なんてなかったんでしょう。

 

気付かれなかったと安堵する一方で、いくら話しても俺のことを思い出さないレイカに対し、徐々に怒りの炎が胸に灯っていくのを感じました。

 

「初めて会った気がしないくらい、私たち話が合いますね」

 

普段、どの男にもお世辞で言ってるであろうその言葉が、いやに俺の胸をえぐります。そうだよ、初対面じゃないんだよ。むしろ俺はお前のことよく知ってるんだよ……。しかし、もともとアタマのあんまり強くないレイカは気づかないのか、俺の小さなプライドが傷ついてることなんか構わず続けます。

 

「鈴木さんって、どこにお勤めなんですか?」

 

予想通りすぎる質問に、思わず笑ってしまいそうになりました。さっきまで、他の男たちと話してるのを密かに聞いていたんですけど、全員に勤め先を聞いていたんですよ。

 

大学生の頃は、イケメンにしか目を向けなかったのに、今は相手を金でしか測ってないようです。まったく、計算高い女って本質は変わらないんですね。

 

そして、俺は慣れた口調で外資系投資銀行の名前を言いました。

「私、外人のアソコに慣れてるから…」 順調すぎる夜、まさかの落とし穴

Couple holding hands in bed
結局、その日中のベッド・インはなりませんでしたが、首尾よく後日デートする約束を取り付けました。
一週間後、待ち合わせたのは西麻布にあるイタリアンレストラン。

 

ひとり1.5万円からと決して安くはないけど、高級デリ◯ルと思えばいいのかなって(笑) レイカみたいな上玉を抱けるのなら、どんな男でも可能性に賭けてみたくなるでしょう?

 

毎週末の強制ホームパーティーの成果か、この頃には僕のトークスキルはかなりのものになっていました。話を聞き、褒めておだてつつ、時折disってやる。

 

最短ルートで彼女の心をこじ開けようとしました。もちろん、高収入アピールは欠かさずに。(じっくり予習してきた)仕事の話をしつつ、ユウヤから借りてきた高級時計をさりげなく見せつけます。

 

その3時間後、俺らは『DESIGN HOTEL IROHA』にいました。ここは六本木にあるラブホで、デザイン性豊かな内装は高級ホテルのよう。まあ、ユウヤのオススメなんですけど(笑) 部屋に入ると俺はレイカにアツいキスをしました。

 

暖色の照明と、ゴージャスな内装がふたりの距離を近づけます。憧れのキャンパスアイドルに口づけ……今までの努力が報われたようで、涙が出そうになりました。大学生の頃のイケてない自分に見せてやりたいって思いましたね。

 

たぶん、世の中の男はタイムマシンがあったら、過去の自分を抱き締めるために使うんじゃないかなって思います。オトコって生き物は、基本的に強がってるだけのチワワなんです。

 

ベッドに倒れ込み、弄りあうと、レイカの服を脱がします。その肌に触れると、カラダが熱くなるのを感じました。

 

居ても立ってもいられなくなり、俺も服を脱ぎました。すると、レイカの表情から一気に血の気が引いていくのを感じ……そして、彼女はこう言い放ちました。

 

「ねえ、あなたまさかハイジーナじゃないの?」

 

ハイジーナ。数ヶ月前の俺であれば知りもしなかった単語。衛生という意味の「ハイジーン(hygiene)」から取られた言葉で、アンダーヘアがまったくない状況を指すもの。

 

アメリカでは男性も処理するのが当たり前で、カミソリなどで剃っている、と脱毛サイトの多くでは言われている。

 

「私、海外に留学してたことあるんですけど、その時に外人と付き合って以来、アンダーヘア処理してない人がキモくて仕方なくなっちゃって……。だから付き合う人には言って処理してもらってきたんだけど……正直、これは濃すぎるっていうか……アマゾン? もはや地肌が見えないくらい生い茂ってるんだもん。それでよく壊死しないね……」

 

たしかに、俺の陰毛が人並み以上に濃いのはわかってるけど、まさかこんなに全否定されるなんて……想像もしなかった展開に、さっきまで飲んでいたアルコールがすーっと抜けていきます。それと同時に、先程まで六本木ヒルズのように張り切っていた俺の息子も、今やすっかり萎れてしまっていました。
続く

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