東京脱毛器男子9「誰が裏切っても、綺麗なお肌は裏切らない」

5年間交際した彼女マユミに捨てられた男・鈴木直樹(30)。ユウヤとともに六本木のタワマンで暮らし、狂乱の日々を送るうちに美意識の増した彼は足の指毛、腕毛、すね毛、VIOライン、うなじ、背中と次々と「脱毛(間引き毛)」していく。子供の頃「ゴリラ」というあだ名をつけられたその面影は今はなく、すっかりキレイな今どき男子に。

恋はなかなか順調にいっていないものの、仕事でもプロジェクト責任者に抜擢され順調なユウヤ。しかし、そんな彼に待ち受けていたのは想像もしない落とし穴だったーー。

偽りのタワマンから追放 愛と欲望の城は消え

High rise city apartments at night
「警察だ! 動くな!」

 

いつものようにホームパーティーをして飲んだくれた翌朝、男たちの怒声で目を覚ましました。気づくと、警察が僕の周りを取り囲んでいます。

 

「動くなよ。おとなしくしとけ」

 

「資料はどこだ? 全部段ボールに入れておけ!」

 

「PCも押収しろ。メールも見るからな」

 

何が何だかわからないうちに、凄まじい威圧感をした男たちが俺を逃げないように囲います。寝耳に水ならぬ、寝耳に警察。でも、なにが起こってるのか全然わかりませんでした。だって、今まで悪いことなんかしてきてないですもん。

 

これはなにかの悪い夢だ、俺はなんにもやってない……助けを求めるかのようにユウヤを見ると、3人がかりで動けないように捕まえられていました。すべてを諦めたかのような、打ちひしがれた顔。そんな顔をしたユウヤを見るのがこれが初めてでした。

 

一体、俺はどれだけヤバいやつと一緒に住んでいたのか……混乱しながらも、少しずつわかってきました。

イケイケCEOは弱者を食らう「詐欺師」だった

hachiko crossing in shibuya area of central tokyo japan at night
警察に、ユウヤのことを聞きました。社員20人の新進気鋭のベンチャー企業CEOというのは嘘で、実際は詐欺師だったらしい。

 

詐欺師と聞くと、いわゆる「オレオレ詐欺」で電話してくる男、みたいなイメージあるんじゃないでしょうか。でも、詐欺師歴10年のユウヤはそんなポジションではなく、もっと上の元締め。グループのトップです。

 

どんな詐欺をしているのかって? もちろん話しますよ。

 

たとえば渋谷の道玄坂のサン◯ルクやルノ◯ールに行くと、そこら中であやしい勧誘が行われていますよね。それは投資であり、ビジネスであり、企業セミナーであったりする。ひとりのカモに対し30分話したかと思うと、また新しいカモが来て、商談を始めるんです。彼らの多くは田舎出身の、まだ世の中をあまり知らない若者たち。

 

「もっとアクティブにいこうよ!」

 

「もっと面白いことしよう!」

 

「若いうちからビジネスやっておくべきだよ!」

 

「今この誘いに乗らないと、ずっと逃げてばかりになるよ!」……

 

垢抜けない自分へのコンプレックスを持つがあまり、ついつい背伸びして知らないものに手を出してしまう。渋谷のあの辺はそういうグループのたまり場で、マルチ業者同士でも話したりしてますから。

 

「あいつはな、本当にクズなんだ。たとえばカモのひとりの大学生。こいつは貧乏な家の出身なんだが、親が本当に頑張って東京に大学に出してやったんだ。もちろんバイトはしているが、それだけじゃなく毎月5万を仕送りしている。なけなしのお金だ。それを、ユウヤはどうしたと思う?

 

『将来への投資』って言って、彼から奪い取ったんだ。株の運用を代行して利益を後で還元、なんて言うが全部嘘。高額の自己啓発セミナーなんかにも誘い入れて、合計で200万円使わせてしまった。結果、大学も中退することになった。お前は、そのお金で借りた部屋に住んでいたんだぞ」

 

警察のおじさんの言葉が胸に深く染みました。俺も人一倍コンプレックスを持っている人間だから、その大学生の気持ちは痛いほどわかります。なのに、なんで俺はそんな汚いお金で借りた部屋に……。彼がいつか言っていた「ここで本当の職業を話す男はいない」という言葉を思い出しました。

 

まさか、彼自身にも当てはまるなんて。

 

ユウヤが犯した犯罪に、なにも関与していなかったことが証明されると、俺は警察から解放されました。しかし、今の俺に帰る部屋はありません。

 

半年の狂乱の生活を過ごした六本木に別れを告げ、俺は埼玉県の実家に戻ることにしました。そして、それは自分を偽り続けた半年間の終わりだったんです。

続く

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